(まえのおはなし) お題 ノルテ・パステル様 【ノ】 野放図に伸びた夏草の中にボールを追って踏み込んでいく。 草むらはもう秋の虫の声がする。 近づくと一瞬しん、となるが少し離れるとまたころころと鳴きだしはじめる。 じりじりと照りつける日差しはまだまだ夏だけど、風が秋の気配を運んでくる、そんな感じがした。 「15分休憩」 ジャグに並ぶもの面倒くさく、水筒は午前中にすでに飲み干していた。 校舎の脇の水飲み場で水を飲んでついでにそのまま頭を蛇口の下に持って行ってざあざあ水をかぶる。 2、3回頭を振って首にかけたタオルで顔をぬぐう。腕を伝う水が冷たい。 【パ】 ぱたん、と音を立ててドアが開いた。 「いいなー男子は涼しそうで」 高いところでくくった髪が揺れる。 「おう」 わざとらしくタオルで頭をごしごしする。 「切ればいいじゃん」 子供のころはどっちが女の子かわからないくらいだったのに。 ヤダヨ、と言いながら前髪をかきあげる。 「昨日は?」 「4−3」 「負けたんだ」 「・・・来なかっただろ」 ちょっと拗ねたように言う。 わかってる。夏休みはどこの部活も力を入れてるわけで、だいたいどこの部活も大会前だったりするわけで。たかが練習試合なんかのために来るわけがないのであって。 「だって遠征だったじゃん」 県外はちょっと無理、と県内なら応援に来るような風に言う。 「たこ焼きでいいよ」 来なかった分、たこ焼きで勘弁したる。 えー、とちょっと口をとがらせた後、ちょっと笑って 「わかった、明日7時に迎えに来て」 「・・・なんで7時?」 今日の学校帰りでいいんだけど。 「・・・遅いと花火、始まっちゃうじゃん」。 (つぎのおはなし) TOPへ戻る |