(まえのおはなし)

お題 シャロ・アンダーヒル様

【シャ】

車輪をきしませながらひたすら自転車をこぐ。
高校から続く坂道は駅前でなだらかなカーブを描いて海岸へ続く道と枝分かれしている。
神社と海岸へとのんびり進む人並みに背を向けて右にハンドルを切った。
慌ただしく鍵を開け部屋にエナメルバッグ放り投げる。

ちら、っと時計を見てそのまま駈け出した。
・・・後から思えばちょっと遅れるからゴメン、とメールでも電話でもしておけばよかったんだけど、
ボクの頭にそれは浮かばなかったんだ。

最初の打ち上げ花火の音が響いた。



【ア】

「汗、すごいよ」
ヒマワリの陰から差し出されたハンカチがぼうっと白く浮かぶ。
息を切らしながら首筋をぬぐって、ふう、っと顔を見る。
「・・・遅い」
目は笑っている。
「綿あめでいいからね」
遅れた罰。
「たこ焼きと綿あめじゃ分が悪いような気が」
なんかいつもそう言いくるめられてる気がするけど、まあ今日のところはいいか。
早く行かないと花火大会が終わってしまうから。
浴衣の彼女の左手をそっとにぎった。




〜Fin〜



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